Lesson9-6.事例:保護者へのイライラ

前回は、教師の同僚や上司などが抱える怒りへの対処法について学びました。

今回のページでは、教師自身が抱く怒りへの対応方法を学んでいきましょう。

あなたが教師の立場として、保護者が理不尽な理由でクレームをしてくる事例を用いて解説します。
保護者が逆ギレ状態になり、話し合いが進まないことにイライラしてしまうケースです。

理不尽なクレームをするのは、不安だから

児童に問題行動があり、話し合いの機会を設けたところ、
自分の子どものことは棚に上げ、教師や学校に対して不満をぶつける保護者もいます。
いわゆる逆ギレ状態や理不尽なクレームです。
これでは落ち着いて話ができず、感情的になってしまうため、
事実を聞くまでに時間がかかったり、理不尽な思いをしたりで、
教師としては保護者に対してイライラしてしまいます。

しかし、保護者が理不尽なクレームをする理由のほとんどは、
実は「自分の子だけのせいにされてるんじゃないか」
「自分の子がそんなことする訳ない」という不安感からきているのです。

「べき」を書き出して、建設的な話し合い

ここで有効な対策が「べき」の書き出しです。
話し合いの前に事前に準備しましょう。

私たちを怒らせる原因は、「~すべき」という欲求です。
まずは自分の「べき」を書き出します。
その後、相手の「べき」を予想して書き出しましょう。

お互いの欲求である「べき」を書き出すと、
お互いの主張を整理できるだけでなく、相手の欲求も理解することができ、
相手の立場も尊重できるようになります。

また予想される「べき」を想像しておけば、ある程度余裕をもって話を進めることができ、感情に流されずに事実を話し合えるようになります。

「べき」の記録方法の事例は以下の通りです。


教師が感じる「べき」の内容

  • 保護者は自分の子どもが起こした問題に対し、しっかりと反省すべき
  • 生徒指導の問題は、すぐに片付けるべき

保護者が感じる「べき」の内容

  • 私の子どもだけじゃなければ、同じように話し合うべき
  • まだ子どもなんだから、大目に見るべき

改めてこう言った視点から書き出してみると、
立場や考え方によって様々な「べき」が存在するということに気づくでしょう。

お互いに様々な「べき」の感情を持ち合わせているのですが、
この感情が満たされないと、それが怒りとなって相手にぶつけられてしまうことになります。

「べき」の内容を事前に書き出しておくことで、
相手がどのような理由で怒りそうか、相手の立場に立ったらどのように対応するのが良いのかが理解できるようになります。

教師としてだけではなく、建設的な話し合いを行いたいときには
ぜひこの方法を活用するようにしてみましょう。

対話例

次は、「べき」の書き出しを行なった上で、教師側がアンガーバランス・マネジメントを実践したと仮定し、対話例を見ていきます。

  • 教師「お忙しい中、お越し頂きありがとうございます。本日はお金の貸し借りに関わった子たちの親御さんとも、それぞれ面談します。よろしくお願いします。」→1人だけを指定せずに平等に一緒に話し合うことで相手の「べき」を満たそうとしている。
  • 保護者「うちの子どもだけではないのですね。分かりました。よろしくお願いします。」→「べき」が満たされて納得
  • 教師「お電話でお話したとおり、〇月〇日〇時頃、コンビニでお菓子を買うために、〇くんが〇さんにお金を借りました。」
  • 保護者「すみません。最近忙しくて気づきませんでした。」
    →怒らずに素直に反省できている
  • 先生「お母さんも忙しいですもんね。だからこそ情報を共有することが大切になります。
  • 保護者「昨日、子どもから話を聞いたのですが、本人は冗談だったみたいなのですが『金をよこせ』と言ってしまったみたいです。大変申し訳ありませんでした。」→怒りが沸いていないので冷静に事実を伝えられている
  • 先生「よく聞いて下さいました。〇さんがその部分をはっきり話してくれなかったんです。お母さん、その話を聞いたときはさぞかし驚いたことでしょう。」
  • 保護者「仕事が忙しくて、しっかり目を配れてませんでした。すみません。」
  • 先生「お仕事がお忙しい中で大変だと思います。そんな中本日お越し頂き、しっかり話し合うことができているので、今後のお子さんの成長を一緒にサポートできればと思います。」→相手の「べき」を満たすような言い方を心がけている

このように、事前に話し合いの内容を「べき」を書き出すことで整理しておくだけで、互いの意見を尊重できる余裕が生まれ、
相手の感情に流されることなく双方にとって気持ちよい形で話を進めていくことができます。

トラブルが起きたときこそ、建設的なコミュニケーションを

「話し合いが複雑になりそうだな」
「少し重い話題を話さなくてはならない」

こういった場面は教師にはもちろん、誰しもが経験すると思います。

その際に感情的になってしまうと、話が進まないだけでなく
お互いを傷つけることになり、事態はより複雑になってしまうのです。

このような事態を避けるためには、今回のページで学んだように、
「べき」の書き出しを行い、事前準備をすることで、お互いの意見を尊重し、深みのある話し合いをすることが大切です。

しっかりと話し合わないといけないようなトラブルが起きたときこそ、
建設的な方向にもっていくことができれば、互いの絆を深められるのです。

「べき」の書き出しをして、相手の立場や気持ちを理解するよう心がけ、配慮することで、
冷静な話し合いをできるようにアンガーバランス・マネジメントを行なっていきましょう。